無料開業サービスを使ってネットショップを始めることについて

ネットショップは開業にかかる資金が少なくて済む、参入障壁の低いビジネスだが、近年になってYahoo!ショッピングが出店費用、売上げ手数料無料化を始めたり、無料開業サービスのBASEのようなサービスが登場したりと、さらにハードルは低くなり、誰でも気軽にネットショップを始めることができるようになった。

そうした土壌の中、さまざまな店舗が続々とオープンしているのだが、今回は無料開業サービスを利用してネットショップを始めることについて書いていく。

 

開業は楽だが運営は難しい

ネットショップを開業するのは本当に簡単になった。BASEを利用すれば30分もあれば自分だけのお店を持ててしまう。それにクレジットカードを導入するにも、決済サービスを提供している企業からの審査を受けることもなく利用可能だ。このお手軽さが多くの人を魅了している。

冒頭でも述べたが、開業が簡単になったということは、インターネット上のショップの数も多くなったということ。それは競合店舗の増加を意味し、それだけ競争も激しいということ。まさに今EC業界は戦国時代を迎えている。

自社のオリジナル商品や、希少なアイテムを取り扱っているわけでもなく、メーカーや卸業者から商材を仕入れてネット販売しているEC事業者の場合、顧客をいかに獲得するかが大変になってきた。お客様もお目当てのアイテムを購入できる店舗がいくつもあるため、自分にとって一番条件の良いショップを選ぶことができる。

そんな中で費用をかけることなくネットショップをオープンした事業者が、その他大勢のショップを出し抜いて、売上げをつくっていくことができるだろうか…よほど特殊なアイテムを扱っていない限りは無理である。

 

ベンダー側は1店舗の売上げに頼らなくてもよい

無料開業サービスを提供するベンダーとしては、大切なのは各店舗の売上げではなく、出店数を増やすことによって生まれる新たな価値である。

たとえ各店舗から売上げに対する手数料を徴収しなくても、提供しているサービスで1000店舗のEC事業者を集めることができたら、手数料とは違う売上げを出す仕組みを構築できる。各店舗の売上げが上がることも、もちろん考えているだろうが、ベンダー側としては、いかに出店店舗数を増やすことができるのかが最重要課題である。

出店店舗数が増えれば、店舗に対して商材を卸したいメーカーや卸業者にとっては、広告を出稿する価値のある媒体になるし、別途費用のかかるオプション機能などを用意することでも、収益を見込めるだろう。

 

ショップは集客に困難する

ベンダー側のことはさておき、無料開業したネットショップに話を戻すと、開業後に一番苦労するのは集客だ。実店舗なら新しくできた店舗を目印として、興味本位で近隣住民がやってきてくれるだろうが、ネットショップの場合はそんなことは一切ない。

インターネットの片隅に、そのショップが誕生したことなんて、誰も気にも留めないし、知る由もない。ショップオーナーは「さぁこれからどんどん売上げを伸ばしていくぞ」と意気込んでいるだろうが、お客様が来なければ売上げは生まれない。

とにかく無料で開業したネットショップオーナーが、真っ先に取り組まなければならないのは集客である。資金が潤沢にあるのなら広告を利用したり、自然検索からの流入のためにSEO対策を行ったり、ソーシャルメディアの運用を始めたりと、あらゆる手を使ってユーザーを集める。集客については「ネットショップの集客に効果的な方法【有料・無料別に紹介】」の記事でも説明しているので、参考にしてほしい。

だがこれが非常に大変なのだ。無料開業という道を選択するぐらいなので、広告にかける予算も少ないことが多い。そのような場合、間違いなくすぐに結果を出すことが難しくなる。もし事業計画上、すぐにでも売上げを出すような計画を立てていたら、見直しをすることも検討したい。

よく「ネットショップならすぐにお客様が集まる」と言う人がいるが、今の時代、その考えは勘違いでしかない。長い目で見て、ショップを成長させながら、固定客をつくっていくことが求められる。

 

楽天市場の場合は違う

もしこれが楽天市場の出店であれば状況は全く違う。楽天市場の場合は出店するだけでも数十万円から数百万円の費用が発生する。その代わり開業後すぐにユーザーを呼び込んで売上げにつなげることができる。それはいったいなぜなのだろうか。

それは楽天市場の場合、楽天市場という電子モール内に、購入意欲の高いユーザーが集まり、物色しているからである。現実社会でも、ひと気の少ない片田舎にぽつんと商店を出すよりも、都内のショッピングモールのテナントを利用した方が、より多くのお客様を集め、売上げをたたき出すことができるだろう。

原理としてはそれと同じで、普段から楽天市場を利用するユーザーを取り込むことができるのだ。ネットショップオーナーなら頭を抱えるであろう集客という問題に、それほど悩まされることもなくなる。実際は楽天モール内でも顧客の取り合いはあるが、独自店舗のように誰にも見てもらえないということはない。

 

既に人を集める仕組みがあれば心強い

無料開業サービスを利用したとしても、人を集められる仕組みを既に持っているなら心強い。

例えば有名人で多くのファンを抱えているのなら、その行動や発言自体が注目を呼び、自身のネットショップに顧客を流し込むことができる。だがこれを読んでいる方の99%は有名人ではないだろう。

テレビに登場するようなタレントでなくても、もし個人で運用しているソーシャルメディアで多くのフォロワーを抱えていたり、ブログを運営しており多くのユーザーを抱えているなら、そうした媒体でつながっているユーザーをネットショップに誘導させることも検討しよう。

そうした媒体を持っていなかったとしても、「ネットショップを立ち上げたら真っ先にするべき6つのこと」でも説明しているように、家族や友人などの近しい存在にも、ネットショップをオープンさせたことをアピールしよう。同情票のような売上げになってしまうが、運営開始直後にはその売上げが大変ありがたく感じるものだ。

 

売るための仕組みづくりをしていこう

無料開業サービスで売れるショップをつくっていくには、売るための仕組みづくりをしていくしかない。今のEC業界はかつてのように、出店すれば売れるわけでも、広告を出せば売れるわけでもない。ユーザーのことを徹底的に考えて、ユーザーから選ばれるショップにしていかなければ、生き残っていくことすら難しい。

お客様と顔を合わせることのないネットショップでも、ユーザーファーストという考え方を忘れずに運営を行っていこう。
※参考「選ばれるショップになるにはユーザーファーストが一番の近道

そしてどんどん新規顧客を開拓していくには、商品力を上げていく、もしくはお客様を呼び込むためツールを構築していくことが必要になる。

 

商品力を上げていく

どこにも販売していない商材を販売すれば、他店との比較検討ができなくなるため、その商品がどうしても欲しいのなら、もうその店で買うしか選択肢はない。そのためには海外で希少価値の高いアイテムを買い付けに行ったり、自社で商品開発を進めていくとよいだろう。

自社で商品を開発する生産体制なんて整えていない…という場合でも、OEM商品の開発をしている企業に相談すれば、簡単にオリジナルアイテムを作り上げることができる。あまりにも話題になれば他店から模倣品が登場するだろうが、やはりオリジナルの品の座は揺るがない。

オリジナルアイテムは利益率も高くなるし、ヒット商品を生み出すことができれば、経営的にも嬉しい商材となる。商品開発を成功させるポイントとしては、企画開発の段階からユーザーのことを徹底的に考え、コンセプトを明確にし、大勢ではなく一部の人を魅了させるようなアイテムを作ること。

自社開発に取り組むなら、以下の記事を参考にしてほしい。

 

宣伝は忘れずに

開発した後は宣伝を忘れてはいけない。開発担当者はその商品の素晴らしさについて熟知しているだろうが、どんなに素晴らしいものでも、存在自体を知りえなければ、購買欲求が沸き立つこともない。

まずは友人・知人などコネを使って宣伝をする。口コミ効果でどんどん知名度が上がっていけば成功だ。さらに無料で利用できるSNSツールなんかでも、開発秘話をストーリー仕立てにしながら配信していくと、拡散の効果を得やすくなる。

また無料のプレスリリースサービスを利用することで、運が良ければ大手メディアからの取材依頼が来るかもしれない。その他にも地域の商工会議所などに掛け合ってみるなど、宣伝することを忘れずに。

 

お客様を呼び込むツールづくり

無料開業したネットショップに集客能力がなければ、自分たちで集客できるツールを用意していけばよいだけの話。

今はメディア化全盛の時代、ソーシャルメディアやブログメディアなど、テレビやラジオとは異なる独自のメディアを、中小企業でも運用できるようになった。そうしたメディア運用を行い、ユーザーにショップのファンになってもらい、いざというときに選んでもらうショップとなる。これが今の時代のネットショップの一種のセオリーでもある。

これだけEC業界に参入する企業が増えた現代では、ネットショップとお客様との関係性は一回こっきりではなく、末永くお付き合いしていく形が理想である。

メディア運用については以下の記事を参考にしてほしい。

 

おわりに 無料開業サービスの増加がますます運営を難しくする

開業する身になって考えれば、リスクを冒すことなくネットショップを無料で開業できることは嬉しいことだが、EC業界全体でみれば、そうした店舗が増えたことによって、ますます売上げをつくっていくのが難しくなった。

一般ユーザーのネット通販に対する抵抗が薄くなって、EC業界の市場規模が拡大しているとはいえ、店舗が増えすぎてしまえば供給過多となってしまう。開業は簡単になった結果、生き残っていくのはより難しくなったという、複雑な仕組みが生まれている。

これから無料でネットショップをオープンしていきたいという方は「ネットショップ開業サービスを徹底比較!無料系からモール系まで」の記事も是非参考にしてほしい。


【著者からの一言】

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鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-

当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!

ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!