ECサイト(ネットショップ)がメディア化を進める6つの理由

近年のEC業界では、ネットショップのSEO強化(自然検索に強くする)のためや、ショップのファンをつくり競合企業との間でお客様の心理的優位に立ち、固定客を捕まえるためにメディア運用が盛んに行われるようになってきた。

既存のネットショップは現在こぞってメディア化を進めているわけだが、メディア化とは何か? メディア化をして生まれる効果とは? 当記事ではECサイトのメディア化について疑問を持っている方に向けて、メディア運用の基本的なことをご説明していこう。

 

EC業界の変遷について

まずはメディア化という手法が生まれるまでの、EC業界の変遷について。
EC業界は変化のスピードも速いため、時代遅れの戦略をとっていては、すぐに新しいサービスを打ち出す競合にお客様が流れていってしまう。そのためネットショップの販売戦略を練っていく上で、EC業界の今を知ることはとても大事。

 

出店すれば売れる時代

インターネットが普及し始めた1995年ごろから、ネット上で物販を行うネット通販が登場。何千年とリアル社会にて行われていた商取引において、EC(電子商取引)という概念はまさに革命的なものだった。

そのためインターネット黎明期においては競合も少なく、ネット上にショップを出店するだけでお客様が集まる時代だった。2000年までに開業したネットショップの場合は、それなりにお客様を抱えていたことだろう。

しかし売れると分かれば、実店舗と比較して出店費用が安くすむネットショップには、多くの事業者が集まるもの。さまざまな業種でネットショップの開店ラッシュが続いた。

 

広告を出してお客を集める時代

ネットショップの数が増えれば需要と供給のバランスがくずれ、「出店すれば売れる」という時代も終わりをむかえる。するとただ出店しただけでは売れないので、どうやってお客様を集めるかが問題になってくる。

そして集客のために、インターネット広告を出稿するという手法が取られるようになっていった。当記事をご覧の方の中にも、クリック課金型のリスティング広告を出稿しているオーナー様もいるのではないだろうか?

リスティング広告だけではなく、他サイトへのバナー広告の掲載や、モール系に出店している事業者なら、モール内の広告を購入している方も多いだろう。

 

集客のために知恵を使う時代

広告を出して集客するというのは、もちろん適切に運用すれば効果のあるものである。しかし近年において、リスティング広告を出稿することに躊躇する企業が増えてきた。

その原因はクリック単価の高騰にある。商品やサービスの価値は、需要と供給のバランスにある。ますます過熱するEC業界において、多くの事業者が似たようなキーワードで広告を出そうと思えば、一方的に需要が増えて価格が上がることは必然である。
広告費が高くなって利益率が下がってしまう現象が起きているのが今のEC業界。

そのために、現在はできるだけ広告費をかけずに集客をする手法に注目が集まっており、実践するネットショップが増加している。広告費がかからなければ利益率も向上し、健全なショップ運営が可能になるからだ。
近年ではイーコマースという概念から派生したメディアコマースやビデオコマースという考えが普及してきている。

物販が目的のネットショップでも、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアを運用したり、見込み客を捕まえ、お客様を満足させるような読み物コンテンツをネットショップと連動させる手法が「売れるショップ」の基本となってきた。

こうした手法のことを、ECサイトのメディア化という。

 

メディア化の概念

まずはECサイトのメディア化ということ自体がどのようなものか、いまいちピンときていない方に、その概念をご説明していこう。(既にメディア化について理解されている方は、次の見出しまで読み飛ばして下さい)

ECサイトのメディア化とは、商品を売買するだけのネットショップに、読み物としてのコンテンツを付与することを指す。

例えば雑貨を扱っているネットショップであれば、商品の写真や仕様、説明が記載されている商品ページの集まりがネットショップの本来の形だが、そこに商品の使い方の提案や、使用例、スタッフがその商品を仕入れた想いなどを、読み物コンテンツとして掲載するのだ。

商品ページよりも、読み物コンテンツが充実することで、一見ネット通販サイトではないように見えるが、ここがポイントなのだ。
通常のネットショップであれば、お客様は何か欲しいものがない限りショップにアクセスしようと思いませんよね。ですがメディア化して読み物コンテンツを増やすことで、ついつい暇なときに閲覧してしまうサイトと位置付けてくれる。

EC業界でも今後はコンテンツマーケティングが加速する時代に突入」の記事にもあるように、コンテンツ中心のマーケティングである。

そしてメディアのファンが徐々に増え、そのファンが自身のショップでお買い物をしていただくお客様に変わる。お気に入りのメディアで気になる商品が紹介されていたり、スタッフのこだわりや熱い想いが伝われば、思わず欲しくなってしまうもの。

目的はあくまでショップ利用者を増やし売上UPをすることで、そのための手法がECサイトのメディア化である。

それでは少しだけ、ECサイトのメディア化に成功している二つのショップをご紹介していこう。

 

北欧暮らしの道具店

http://hokuohkurashi.com/

北欧雑貨を取り扱うECサイト。読み物コンテンツが非常に充実しており、スタッフによって商品の使い方の提案や、等身大のライフスタイルを紹介している。読んでいて思わず「いいな」と思ってしまう記事ばかり。

2007年にネットショップをオープンさせたそうだが、メディア化が功を奏し、数百万円だった売上が2年で2億円を超えたとも言われている。現在ではFacebookのいいね数も30万を超える超人気サイトとなっている。

 

石けん百科

http://www.live-science.co.jp/store/php/shop/

一見ただの通販サイトのように思いますが、一番下までスクロールすると「石けん百貨の姉妹サイト」という箇所があり、そこには「読んで美に効く基礎知識」や「せっけん楽会」といった別サイトの紹介がされている。

石けん百科のメディア化は先ほどの「北欧暮らしの道具店」とは異なり、ショップサイトはそのままに、ショップへの流入を増やすためのメディアサイトを別に構築している。

姉妹サイトとなるメディア上では、スキンケアにまつわる豆知識を紹介したり、石鹸についての情報を公開することで、メディア自体のファンが増え、そこからショップへの流入につながり、売り上げに寄与するようになっている。

このように、ECサイト自体に直接手を入れてメディア化する一体型と、ECサイトとは別にメディア構築をする分離型の2タイプがあるが、どちらも考え方は同じ。メディアとして成長すれば、おのずとショップの利用者が増え、売上増につながっていく。
※当サイトの「ECメディア」で手掛けているメディア化は分離型になります。

メディア型ネットショップの成功事例をもっと知りたいという方は、こちらの「ECサイトのメディア化に成功した事例サイトに学ぶ運営方針」の記事も参考にしてほしい。

 

ECサイトをメディア化して生まれる利点

それでは、ECサイトをメディア化して生まれる利点についてご説明していこう。

 

1.高い集客効果

ネットショップを開いてまずショップオーナー様が頭を抱えるのが、どのようにして集客していくか…ということ。

実店舗での商売であれば、店舗自体が看板となり、前の道路を通行する人にアピールすることができる。それにお金はかかりますが近隣住民の方向けに、ポスティングチラシや新聞の折り込み広告などでも宣伝をすることが可能。もっと言えば店主自らが広告塔となって付近を歩き回ってもよいだろう。

 

ECサイトの集客は2通り

ではECサイトの場合はどうか…商品名で検索されるのを待つのか、ネット広告を利用するかの2通りしかありません。

検索待ちという場合、よほどニッチな商品を取り扱っていれば別だが(そもそもニッチなアイテムは検索数も少ないですが)、メーカー生産の既製品などを扱っている場合、ネット検索という特性上、上位表示させることは極めて難しい。

一昔前であれば少々ブラックな手法でSEO対策を施し、上位表示できていたかもしれないが、検索エンジンも賢くなり、現在ではブラックなSEO対策をしていると、ペナルティを食らって表示すらさせてもらえない。

それにホワイトなSEO対策を施していたとしても、やはり楽天やアマゾンなどの大手ショッピングモールと比較するとSEOでは負けてしまう。(楽天のモールの中でも上位表示を競う時代ですから)

 

メディア化対応で間接的な流入を

だからこそネットショップへの直接的な流入よりも、ECサイトと連動したメディアを作り上げ、間接的な流入を図るのだ。

例えばシャンプーを購入するお客様であれば、購入を検討する材料集めとして、事前にその使い心地や効果などを調べている可能性が高い。であれば、そのシャンプーの使い心地や効果についての情報を発信する記事を公開し、メディア上の記事を仲介してショップへ来てもらうのだ。

メディアでは商品にまつわる豆知識や使い方の提案といったページを用意して、まずは興味・関心事のあるユーザーを捕まえる。そしてそのまま商品ページへ誘導して購入してもらう。

 

2.ファンをつくり心理的優位に立つ

ショップのメディア化はファンをつくるということにも効果を発揮する。
ファンが生まれれば心理的な面において、競合のネットショップとのお客様の奪い合い競争において有利になる。

 

ECサイトは価格競争になりがち

ネット上で商品を購入する行為が当たり前になってきた時代。実店舗であれば多少高くても家から近いからという理由で商品を購入してくれる方も多いだろうが、ネット通販の場合はクリック一つで価格の比較ができてしまう。

たいした労力を必要とせず店舗間で価格の比較ができるからこそ、ECサイトは価格競争に巻き込まれやすい。
でもなぜ価格競争に巻き込まれるのか? それはお客様がショップに対して愛着がなく、商品価格だけしか見ていないからだ。

楽天市場やヤフーショッピングのようなモール系ECサイトは、この傾向が特に強くみられる。

 

価格競争に巻き込まれないためのファンづくり

価格競争を避けたいのであれば、ショップに愛着を持ってもらい、何か欲しいものがあるときに、一番初めにチェックしてもらえるECサイトになるべきである。メディア化するということは、発信する情報を面白いと思い普段から閲覧してくれる”ファン”をつくるということ。

「行きつけの店」という言葉もある通り、ネットの世界でもファンは行きつけの店舗で商品を購入するものだ。もうただ安く売るだけの時代は終了した。これからはお客様のためになる情報を発信するメディアを運営して、ファンを抱えるショップが主流となっていくことだろう。そうすれば、競合企業とも心理的な面で優位に立つことができ、優先的に選ばれるショップとなる。
※「競合企業が多いほどショップのメディア化が有効な3つの理由」参照

これは比較的集客力の高いモール系ショップでも同じことが言える。
楽天やヤフーショッピングなどのモール系ショップもメディア化対策を進めよう

 

3.情報の拡散

インターネットがリアル社会よりも優れている部分、それは情報の拡散力。SNSの登場によって、さらにネット上の情報拡散力は飛躍した。そして情報の拡散といった面でも、ECサイトのメディア化は非常に相性が良いのだ。

FacebookやTwitterなど、ソーシャルネットワークを設置することができるメディアでは、ユーザーがとある商品の紹介記事を読んで、いいなと思ったら「いいね!」ボタンを押してくれる。すると「いいね!」を押してくれた方の友達まで商品を紹介することができる。

さらにその友達がいいねを押してその友達も…と考えていくと、御社で取り扱っている商品の魅力を何千、何万というユーザーにお知らせすることができるのである。

 

 

4.気軽に情報発信

例えばセール情報や新しく入荷した商品の情報をお客様に伝えたい場合、今まではメールマガジンが頻繁に利用されてきた。しかしメールマガジンも利用の仕方次第では、せっかく購読してもらっているお客様にとって迷惑なものとして扱われてしまうこともある。

メールマガジンも突き詰めれば広告ですから、一方的に送られてくるものに対し身構えてしまうお客様もいる。それに毎日メルマガが送られてくることに嫌悪感を感じる方もいるだろう。

しかしメディアであれば、セール情報や新商品情報も気軽に掲載することができる。それはなぜかと言うと、ユーザーの方に「これを見てね」と強制することがないからだ。

それではメディア上で情報発信したとしても誰にも見てもらえないのでは? と思うかもしれないが、ファンとなってもらったユーザーの方も、メディアにアクセスしてそれが興味のある内容であれば、絶対に記事を開いて読んでくれる。

 

5.費用をかけない広告塔

広告出稿の場合、大手サイトにバナー掲載や記事広告を出稿するのに数万円から数百万円かかることもざらにある。またリスティング広告であればクリックごとに課金されてしまう。

ですがメディア運用の場合は広告のように費用が掛かることはない。全ては書き起こした記事が広告塔のような役割をもって、検索経由でユーザーを捕まえてくれるのだ。
つまり記事を起こせば起こすほど、無料の広告を出稿していることと同じともいえる。

ネットという特性上、一度起こした記事は半永久的に残り、24時間365日休むことなく、ユーザーに情報を発信し続けてくれる。

 

6.広告収入

一つ上の項で広告について記載したが、通常はネットショップを運営している事業者の方は、広告出稿を依頼する側だろう。しかし自社のメディアを持ち、ある程度のPVが増えることで、他社の広告を掲載して広告収入を得ることが可能になる。

立ち上げ初期の段階でも、グーグルのアドセンス広告を設置することで、自動で広告バナーが表示されるようになる。そしてその広告を誰かがクリックすることで、数十円~数百円の広告収入が入ってくる仕組みだ。

1クリック数十円といっても、チリも積もれば山となるように、数千、数万のクリックがあれば広告収入だけでも結構な額になる。

自社メディアがショップへの流入や購買につながるだけでなく、広告媒体としての価値をもって二重収入を得ることができるのは嬉しいポイントである。

広告収入については「メディア化対応して得られるECサイトの売上げ以外の収入」の記事を参考にしてほしい。

 

おわりに メディア化は武器となる

ECサイトをメディア化するメリットをご理解いただけただろうか。

数千年と続いてきた実店舗での商取引と違い、ネットの世界は始まってからまだ20年そこそこ。効率的な物販のために、どんどん新たな手法が生まれている。その中でも現在一番効果的と言われているのがECサイトのメディア化である。

クリック課金型の広告のように、メディアを立ち上げてすぐに劇的な効果が現れるものではないが、コツコツと続けることでメディアは会社としての資産となり、集客のための武器となることは間違いない。

メディア化については、以下の記事も併せてご覧ください。

・メディア運用の始め方
ECサイトメディア化戦略の成功のために必要なプロセスとは

・メディアのコンテンツ設定にお悩みなら
EC型メディアを運用する上でコンテンツとしたいカテゴリ10選

・実店舗の集客やブランディングにも利用するなら
メディア運用で実店舗の集客を加速させる方法


【著者からの一言】

profile

鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-

当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!

ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!