ECサイトのメディア化に成功した事例サイトに学ぶ運営方針

EC業界のトレンドになりつつあるメディア化戦略ですが、「そろそろうちのショップもメディア対応して、集客を強化しようか」とお考えではありませんか? もちろんメディア化はファンづくりや集客という点で有効な施策の一つではあるのですが、何事も方向性を間違えては効果も半減してしまいます。
※ECサイトのメディア化の概念や基本は「ECサイト(ネットショップ)がメディア化を進める6つの理由」を参照

ということで、現在ECサイトをメディア化して成功を収めているサイトを、いくつかご紹介していきます。そうしたサイトからマーケティング手法をご説明していきますので、是非ともメディア戦略の参考にして下さい!(最後にはまとめも用意しています)

 

石鹸百科

http://www.live-science.com/

たかが石鹸、されど石鹸ですが、石鹸に関しての圧倒的な知識とコンテンツ量で、ネットショップへ送客する役割を果たすメディアサイトを立ち上げて成功した石鹸百科。

石鹸に対する入門的な雑学から専門的な知識まで、このサイトで石鹸の全てを網羅していると言っても過言ではないかもしれません。

これだけ特定の分野に対して豊富なコンテンツを用意すれば、石鹸について検索をかけたユーザーは、結果として石鹸百科のサイトに行きつくことが想定されます。

 

石けん百科のマーケティング

石鹸百科がお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。(メディアサイトである石鹸百科とショップは別ドメイン)

1.検索結果で石鹸に対して興味を持っているユーザーを石鹸百科で捕まえる
2.メディアサイトでお客様の満足のいく情報をお届けし、安心感・信頼感を与える
3.ショップへ送客したユーザーが客様となる

徹底的に一つの分野を掘り下げて掘り下げて、検索エンジンに対してユーザーを逃さない網を張り巡らせているとも表現できます。

 

北欧暮らしの道具店

http://hokuohkurashi.com/

ECサイトのメディア化という話題では、必ずと言ってよいほど登場するのが「北欧暮らしの道具店」。EC業界におけるコンテンツマーケティングの先駆者ともいえる存在。

もともとは北欧のヴィンテージアイテムを扱っていたそうですが、雑誌のように読んで楽しめるメディアを目指して、ECサイトに読みものコンテンツを追加していったそうです。
そのため先述の石鹸百科のような知識系メディアサイトとは違い、よりエンタメ要素が強いのが北欧暮らしの道具店。

読み物コンテンツの中には、販売している商品の使い方提案やスタッフレビューといった内容から、映画紹介やおやつの作り方紹介などもございます。映画やおやつなどは、ショップの取扱い商品とは全く関係ないように思えますが、「北欧の暮らしを提案」というサイトとのコンセプトからは外れていません。

つまりショップの取扱い商品に興味を持っている、見込み客となりえる層に対して、読んで楽しいと思える情報を発信しているのです。

 

北欧暮らしの道具店のマーケティング

北欧暮らしの道具店がお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。

1.読んで楽しめるメディアとして、北欧についてや、素敵な暮らしについての記事を発信し、まずは楽しんでもらう
2.マガジン形式で継続的に記事更新していくことで、メディアのファンとなってもらい、アクセス回数を増やす
3.お気に入りのショップで購入しようというファン心理が作用して、定期的に利用する固定客となる

ついつい暇な時間があると北欧暮らしの道具店にアクセスしてしまう、そんなファンの心をつかむメディア展開が上手。

 

醤油職人

http://www.s-shoyu.com/

醤油職人という、醤油を専門的に販売するネットショップ。日本人にとっては欠かせない調味料である醤油にこだわりたいという方や、贈答用に醤油をお考えの方には嬉しいサイト。

醤油職人のコンテンツの特徴としては、実際に醤油を生産している蔵元の写真や、作っている人にフォーカスを当てて紹介していること。オンライン通販のサイトは商品ばかりにフォーカスが当てられがちですが、メディア化することによって商品が作られる背景や作っている人の”人となり”までお伝えすることができる。

一言に醤油と言っても、産地や蔵が異なれば、味にだって変化は表れます。そうしたちょっとした違いを丁寧に伝えている。これも醤油職人代表の高橋さんが、全国の蔵を実際に訪れているからこそ実現できるコンテンツ。醤油への愛を感じます。

 

醤油職人のマーケティング

醤油職人がお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。

1.醤油を購入しようとするユーザーが、醤油職人のページを閲覧
2.商品情報だけでなく、生産者や蔵の中といったディープな情報を伝えることにより、醤油を選ぶ楽しみが追加される
3.数ある醤油の中から、提供された情報をもとにお気に入りの一品を購入する

商品ジャンルが少なくとも、これほどまでに魅せるページに仕上げることができるというお手本的存在。

 

職人Times

職人Timesとは日本国内のクラフト系作家さんにフォーカスを当てたメディアサイトで、メディア内で紹介している作家さんの作品を、別ドメインのショップで購入可能。メディアの役割としては、はじめに紹介した石鹸百科のように、ショップへユーザーを送るためにある。

作家物はネット通販で最も取り扱いが難しい商品の一つ。ただ使うための道具であれば、100円均一に行けばそれなりの道具を購入できてしまう時代に、一皿1万円もする木の器を誰が買うだろうか。

百貨店などで開催される催事では、実際に作家さんの話を聞きながら、実物を手に取り、お皿一枚にも大金を出す理由を見つけられるかもしれないが、ネット通販でそれを行うのは至難の業。

職人Timesではなぜ一皿1万円の器が売れるのか…それは一人の職人さんにつき、「製品紹介」「職人インタビュー」「工房案内」という3つのコンテンツを用意して、徹底的に魅力を伝えているから。 コンテンツも徹底して掘り下げていけば、作家の熱い想いも読者の心に響くのだろう。

 

職人Timesのマーケティング

職人Timesがお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。

1.興味本位で職人Timesのページを閲覧
2.作家のものづくりに対するこだわりや、大量生産の既製品との質の違いを読んでいくうちに、欲しいという気持ちが高まる
3.ショップページに遷移して、商品を購入

職人Timesというメディア上で、いかに購買欲求を高められるかが鍵となっている。

 

土屋鞄製造所

http://www.tsuchiya-kaban.jp/

ランドセル作りから始まったという土屋鞄製造所は、メディア運用の中でもソーシャルメディアに特化した集客を行っていることでも有名。もちろんサイトのつくりも非常にしっかりしており、オンラインショッピングのサイトとは別に、革のことや作り手のことをサイト上で知ることができます。

土屋鞄製造所が運用するFacebookページのいいねの数は、2016年2月現在、なんと28万いいねを獲得!Facebookのタイムラインに投稿すれば、毎回コンスタントに2000弱のアクションがあり、ときには1万近いアクションを頂くことも。

Facebookをはじめとしたソーシャルメディアの運用は、情報の拡散という点で優れていますので、上手にソーシャルメディアを使いこなしている例とも言えます。

 

土屋鞄製造所のマーケティング

土屋鞄製造所がお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。

1.Facebook上で商品や店舗にまつわる情報を発信し、面白いと思ったユーザーが「いいね」する
2.情報の拡散によって、土屋鞄製造所をいいねしているユーザー以外にもアピールすることができ、どんどんファンの数が増える
3.その中の一部が、ショップページにもアクセスし、バッグや小物などのアイテムを購入する

集客の始まりはSNSで、その情報拡散力を上手に利用している。

 

竹虎

http://www.taketora.co.jp/

創業122年の老舗竹メーカーの竹虎。

メディア化を推進したという4代目社長の個性が爆発したサイトで、古風な商品を扱いながらもユニークな宣伝方法で注目を集め、ユニクロなどの大手企業ともコラボレーションしています。

とにかく個性的なデザインと世界観を持つサイトに仕上がっており、サイト内で使用される味のある墨文字は、4代目社長の直筆という徹底ぶり。その個性に魅了されたユーザーは多数。ネット通販の売上げも順調に伸びているようです。

4代目社長はじめ、社員の方も積極的に露出しているため、ネット通販ならではの顔の見ない取引という不信感を和らげてくれます。と同時に、社員の方の自社商品に対する誇りも伝わってきます。

 

竹虎のマーケティング

竹虎がお客様を獲得するまでのプロセスは以下の通り。

1.ウェブサイトの強烈な個性から、ファーストインパクトでサイトの世界観に魅了される人多数(逆に気に入らないという人もいる)
2.興味本位でサイトを閲覧しているうちに魅力的な商品をみつける
3.従業員の顔が出ているということもあり、安心して購入

もともと質の高い魅力的な商品を扱っていた竹虎だが、メディアを利用して新しいユーザー層への販売経路を切り開くことに成功。

 

メディア成功事例集から学ぶこと

メディア運用と一言に言っても、目的やコンバージョンまでのプロセスを考えることで、実に多くのアプローチがあることが分かる。

 

検索エンジンからの自然検索を増やしたい場合

自然検索からの流入を増やしたい場合は、検索キーワードを意識した記事起こしを考える必要がある。

例えば先にご紹介した石鹸百科の場合では、「薬用石鹸とは?」や「布ナプキンの洗い方」といったシンプルなタイトルの記事が見受けられるが、これも薬用石鹸についてや布ナプキンの洗い方について調べるユーザーがいることを見越した上で付けたタイトルだろう。

そこで必要なのは、もし自分なら何か調べ物をするときに、どんなキーワードで検索するかな? と考えること。できるだけ専門用語は使わずに、ユーザー目線でキーワード選びをすることで、より検索で拾われやすいメディアを構築することができる。

 

メディアのファンを増やしたい場合

暇なときにアクセスしたくなるような、エンタメ的要素を持つメディア運用を目指すならば、ターゲットとなるユーザーが抱えているであろう、興味や関心事について洗い出してみよう。

30代女性であればお菓子作りや子育てについて興味があるかもしれないし、20代男性であればインテリアやアウトドアに関心があるかもしれない。

そして気を付けるべきは、ただユーザーにとって面白い情報を発信しようと、ショップとは何の関係もない情報をお届けしてしまうのはいけない。ユーザーにとっては、ためになったり面白いと思える情報が配信されれば定期購読したくなるが、売上げにつながらなければ、ショップにとってはメディア運用をしている意味がない。ただの負担になるだけだ。

だからターゲット層の興味関心事を把握した上で、どのように商品やショップを絡めていけるかを優先的に考えていくようにしよう。

 

さらに商品の魅力を伝えたい場合

メディア運用とは、商品ページだけでは伝わらない、商品の深い魅力をお届けするのにも有効な手段。

商品についてもっと掘り下げて魅力をお伝えしたいという場合には、一体何を伝えたいのかを挙げてみよう。そして伝えたい事柄に対して、どのような見せ方が適切なのかを考えます。

工芸品やハンドメイド系のアイテムであれば、作り手のこだわりをインタビュー形式で伝えても面白いだろうし、技術的な面が言葉では伝えづらいのであれば、ふんだんに写真を使ってみよう。

商品自体が素晴らしいのはもちろんだが、購入することでどんなメリットがあるかは、スタッフが実際に使用したレビューや、インテリアであればコーディネート例なども読者にとって参考になる情報だ。

 

おわりに

メディア化運用とは簡単そうに見えて、非常に奥が深い。しかし突き詰めれば、ユーザーにとって何を知ることができれば喜んでいただけるのか、そこを考えるシンプルなものでもあるとも言える。

もちろんECサイトのメディア化による最終的な目標は商品の購入になりますので、そのためのプロセスは、しっかりと目的を見失わずに定めていかなければならない。

メディア運用を始めた当初はなかなか成果が出ないため、途中で方針を変えてしまおうと思いがちですが、それは危険信号。効果が出るには時間がかかるものですから、まず半年程度は当初に決めたプランの通りに、コツコツとメディア運用を実行していくようにしましょう。
メディア運用で100%の効果を発揮するには、適切なプランニングが何よりも大切です。


【著者からの一言】

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鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-

当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!

ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!