イーコマース(電子商取引)という概念が生まれてから20年あまりが経過し、ネット上で購入できないものはないというぐらい、あらゆるものをネット通販で手に入れることができるようになった。
販売事業者としても店舗賃貸料のかからないネットショップは魅力的であり、出店ラッシュが続いているのだが、取扱いの商材の中に行政の許可が必要なものはないだろうか? 場合によってはしっかりと届け出を行い、許可や免許の取得が必要になるものがある。
これからネットショップを始めようと考えている方のために、販売に必要な免許や許可の届け出についてご説明していこう。
食品を販売する場合
お菓子作りが得意な奥様なら、おうちのキッチンでクッキーを焼いて、ネットで販売してみようと思うかもしれないが、この場合は「食品衛生法に基づく営業許可」が必要になるので注意してほしい。
食品関係を取り扱う場合、メーカーから仕入れた加工食品であれば特別な許可は必要ないが、飲食店や喫茶店で調理した品、菓子類や食肉加工品、ソースや味噌などの調味料、牛乳やチーズといった乳製品などを自社で加工して販売する場合には、許可を取得しなければならない。
また食品衛生法に基づく営業許可を取得するためには食品衛生責任者の存在が必要不可欠であり、食品衛生責任者には専門の免許を取得している人物を選任しなければならない。
少々回りくどくなってしまったが、自社で加工した食品を扱うには「食品衛生法に基づく営業許可」と「食品衛生責任者の免許」が必要になる。
許可と免許を取得するには
それぞれの許可や免許を取得するには、次の通り。
食品衛生責任者の免許
食品衛生責任者の免許は、各都道府県にある食品衛生協会で6時間の講習を受けることで取得できる。受講後は修了証が交付されるので、食品衛生責任者となれる資格が与えられる。
ただし医師や薬剤師、栄養士、薬剤師などの資格を持っている者は、この講習を受けることなく食品衛生責任者になることができる。詳しくはこちらの食品衛生責任者ページ 受講資格の項目を確認してほしい。
食品衛生法に基づく営業許可
食品衛生法に基づく営業許可は各都道府県の保健所に届け出を行う。届け出の際には既定の申請書に加え、場合によっては営業施設の平面図や水質検査成績書等も必要となり、各県の条例で定められている基準をクリアしなければならない。
自宅で作ったおやつを片手間でネット販売するとなると、この許可を取ることが困難を極めるだろう。
酒類(アルコール)を販売する場合
酒好きが高じて、お気に入りのワインや焼酎をネット販売しようと思う方もいるだろう。酒類の場合は一時的にネットオークションで売買する分には問題ないが、ビジネスとして継続的に通販をしていくのであれば免許が必要になる。
酒類を販売するには酒類販売業免許という免許があるのだが、卸売りや小売りなどの業種形態や取扱う酒の種類によって、さまざまな免許が存在する。
一般的に小売店として酒類を扱っている酒屋なら一般酒類小売業免許を取得していると思うが、2都道府県以上の広域な範囲を対象としてネット通販を行うには、通信販売酒類小売業免許が必要になる。
取り扱える酒の種類
通信販売酒類小売業免許で取り扱うことのできる酒の種類には制限がある。ワインやブランデーなど輸入された洋酒には制限がないが、以下の内容に該当する国産酒の場合に制限が発生する。
カタログ等(インターネット等によるものを含む。)の発行年月日の属する会計年度(4月1日から翌年の3月31日までの期間をいう。)の前会計年度における酒類の品目ごとの課税移出数量が、全て3,000キロリットル未満である酒類製造者が製造、販売する酒類。
つまり大手メーカーのビールや焼酎などは扱えないということ。
地ビールなどの少々マイナーなブランドのお酒に限られるが、「店主こだわりのお酒を日本全国から集めました」というコンセプトのネットショップなら問題ないだろう。
制限を受けない抜け道がある
実は通信販売酒類小売業免許には抜け道があり、販売する酒の制限を受けなくて済む場合もあるのだ。通信販売酒類小売業免許は1989年に制定された免許であり、それ以前に酒販売の小売免許を取得していた事業者の場合は、販売品目に制限が発生しない。
そのため老舗の酒店を買収することで、制限に縛られない酒通販を行っている業者もある。
免許の取得方法
通信販売酒類小売業免許の申請は税務署で行う。
細かく定められた人的要件、場所的要件、経営基礎的要件、需給調整要件(販売できる酒類)を満たしている必要があり、販売場の敷地の状況、建物等の配置図など複数の書類が必要になり、少々煩雑な手続きになる。そのため行政書士に代行して申請してもらうという手もある。
中古品を販売する場合
自分の所有物をネットでコツコツ販売していくなら別だが、商売として中古品やリサイクル品を販売する場合は、ネット通販に限らずだが古物商許可が必要になる。
中古品の定義
中古品を販売する前には中古品の定義について理解しておきたい。
- 一度でも誰かの手によって使用されたもの
- 未使用であっても、使用のために一度でも取引されたもの
- 未使用であっても、なにかしらの手入れ(メンテナンス)をされたもの
以上の条件のうち、いずれか一つにでも当てはまれば中古品として扱われる。
絵画やアンティーク品などの美術品、洋服、時計や指輪などのアクセサリー、カメラなどの写真機類、書籍、ゲームソフトなどの電子機器は中古品として売買されることも多いが、気を付けるべきは金券類だ。
新幹線の特急券や郵便切手、商品券などの金券類も中古品の扱いになる。
許可の申請方法
古物商の許可申請は、営業所の所在地を管轄する警察署の防犯係が窓口となる。申請料金は19,000円。既定の申請書を記載し、法人であれば謄本や定款、住民票や身分証明書などの書類を添付して申請する。
申請自体はそこまで難しいものでもないので、第三者に頼らなくてもよいだろう。
詳細はこちらの警察庁のページを参考にしてほしい。
ペットを扱う場合
ペットを扱う場合の許可については、ネット上で検索すると各都道府県の保健所への届け出が必要という情報が出てくるが、これは一昔前の情報なので注意してほしい。
平成18年に動物の愛護及び管理の関する法律が改正されたことによって、各都道府県の知事に対して第一種動物取扱業の登録を申請しなければならない。※政令指定都市の場合は市長に対して登録申請を行う。
登録の必要ない動物もいる
第一種動物取扱業の登録が必要になるのは、哺乳類、鳥類 爬虫類を販売するときのみに限られ、両生類、魚類、昆虫を販売する場合には登録の必要はない。
登録の必要がないといっても、これらの動物にはずさんな扱いをしてもよいわけではないので、生き物である限りしっかりと愛情をもって取り扱おう。
登録の申請方法
第一種動物取扱業の登録を行うには、事前に動物取扱責任者の研修を受講する必要がある。※1年以上の実務経験があったり、専門学校を卒業している場合には研修を受講する必要はない。
その後、各地域の動物愛護センターや保護センターにて申請を行う。各自治体の役所や保護センターのホームページを参考にしてほしい。
輸入品
輸入品を販売する場合は、国内で生産されたものと比較して格段に検査が厳しくなる。
国内ではチェックの必要もなかった缶詰やスナック菓子などの加工食品でさえも、食品衛生法の検査が必要になる。また食器はもとより、ベビー用品についても口の中に入る恐れがあるという理由で、食品衛生法の検査対象になる。
その他にも動植物の場合は病原菌や外来種を持ち込まないための検疫手続きが必要になってくるので、販売する品目に対して規制があるのかは必ずチェックしてほしい。
おわりに 販売前には必ず許可の確認を
これまで食品・酒類・中古品・動物と、免許や許可が必要になる代表的な商材をご紹介してきたが、この他にも花火などの火薬を取り扱ったり、医療器具を販売するにはそれぞれ届け出が必要になることがある。
無許可営業は違反行為になるため、販売を開始する前には、必ずその商品に免許や届け出が必要なのかを確認するようにしたい。
【著者からの一言】
鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-
当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!
ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!