地方都市のEC事業者ほどネット通販の恩恵が受けられる

もはやインターネットで物を買うことが当たり前になった時代、消費者のネット通販を利用すること自体の心理的ハードルもずいぶん低くなった。さらにさまざまなサービスの登場によって、ネットショップを開業することの資金的ハードルも下がり、新たな販路を開拓しようと、続々とEC業界に参入する事業者が増えている。

だがよりネット通販の利点を享受できる、恩恵を受けられるのは、首都圏を拠点とするEC事業者ではなく、地方都市のEC事業者なのだ。地方都市の小売業、製造業、農家・漁師などを営んでいる事業者のために、地方でネットショップを開業するメリットを説明していくので、ネット通販を新事業として始めることを検討してはいかがだろうか。

 

そもそもネット環境と物流環境があれば問題ない

“どこでもいつでもお買い物ができるネット通販”は、地方都市に住むユーザーにとって便利なものである。遠くのスーパーまで足を運ぶ必要もないし、東京で話題のスイーツだって、クリック一つでお取り寄せすることが可能だ。

だがネット通販のメリットはユーザーだけに与えられるものではない。ネットショップを展開するEC事業者だって、ネット環境と物流環境さえ整っていれば、日本のどこだってネットショップを開くことができるのだ。

よほどの山奥や無人島でない限り、今の日本でインターネットに接続できない地域はそうそうない。離島や過疎地でもネット環境が整備されているほどだ。物流という意味でも、郵便局も簡易郵便局を含めると全国で2万4千ほどの局数があり、さらにヤマト運輸や佐川急便などのキャリアもある。

ネットショップを始めるのに場所は関係ないのである。

 

地方でネットショップを開業することのメリット

経費を安く抑えられる

地方でネットショップを開業することのメリットとして、まず第一に資金的な利点が挙げられる。日本国内でも物価は一律ではない。人口の集まる都市部になればなるほど物価は上昇する。地方の場合は物価が安いため、経費を安く抑えることにつながる。経費を抑えられるということは、利益を高く保つことにつながるのである。

 

人件費が安い

まず商売には人が必要だ。そして人を雇うには人件費が発生する。よく一人運営のネットショップオーナーは人件費を考慮しないことが多いが、自分一人しかいないとしても人件費が発生していることを忘れてはいけない。もちろん複数名でネットショップを立ち上げるなら、人数分の給与を支払わなければならない。

人件費は都市部よりも地方の方が安い。最低賃金は厚生労働省によって各県ごとに定められており、平成27年度の状況は東京都の907円に対して、沖縄県は693円となっている。その差にして214円も違うのである。

最低賃金すれすれで従業員を雇い入れるのが良いというわけではないが、従業員を募集する際にも、地方の方がより低賃金で人が集まりやすい状況がある。

 

事務所の賃貸料が安い

ネットショップはパソコンだけがあればよいわけではなく、在庫を管理しておくスペースも必要になる。大切な商品を野山に放置しておくわけにもいかないので、事務所なり倉庫なりを賃貸で借りなければならない。東京のマンションやアパートの賃貸料が高いことに驚いてしまう人が多いが、事務所にしたって賃貸料は地方の方が圧倒的に安く済む。

 

地方でありながら首都圏の事業者と同じ土俵で戦える

実店舗の場合は、より多くのお客様を集めようと思ったら、都市部の人がひっきりなしに通る場所で開業するのが圧倒的に有利だ。その反面地方の場合は、商圏内の住居数に限りがあるため、どんな手を使っても都市部と同じぐらいの人を集めるのは困難だ。

しかしネットショップには立地という概念がない。そのため地方だから開業が困難とか、集客が難しいということはない。上の項で説明したように、都市部よりも経費を抑えることができるにもかかわらず、都市部の事業者と同じ土俵で戦えるのである。

お客様としても、お目当ての商品が購入できて、条件の良いショップであればどのお店で買おうと問題ない。ショップの差をつくるものは立地的な問題ではなく、いかにネットショップの施策が優れているかといった販売戦略面である。

 

話題作りをしやすい

地方には首都圏の人が知らないような名産がたくさんある。普段なら全国の市場に出回らない商材も、ネットショップを立ち上げることで、製造業者・農家・漁師・畜産業などを営む事業者が、直接消費者に販売することで、大きな話題となる場合がある。

都内で卸業者から商品を仕入れて販売しても、売上の調子とは別に、そのショップが大きな話題を生むことは少ない。だがインターネットを利用することで、今までは地元の限られた人たちにしか知られていなかった商材が流通することになれば、注目を浴びやすくなる。

生産者がいて、中継ぎ業者がいて、小売店があるのは今までの流通の基本だが、生産者から直接消費者に販売できることは、インターネット通販ならではの利点でもあり、こうしたことも地方のEC事業者の方が取り組みやすいビジネスモデルになる。

 

地方で開業するデメリット

これまでネットショップを地方で開業することで受けられるメリットについて説明してきたが、少しばかりのデメリットがあることも事実である。

 

送料の問題

レターパックなどの全国送料一律の配送方法であれば関係はないが、ゆうパックのような配達エリアによって送料が変わるタイプの配送方法を採用しているネットショップは、送料の面でデメリットになることがある。

日本の人口分布が首都圏に集中しているように、ネットショップを利用するユーザーの割合も、地方よりも都市部の方が圧倒的に多い。そうすると同じ首都圏に拠点があるネットショップから発送するのと、北海道や沖縄から発送するのでは、前者の方が送料は安くなる。少しでもネットショップでのお買い物を安く済ませたいと考えているユーザーにとっては、送料の安い首都圏のショップを利用したいと考えるのが普通だ。

送料についてはショップ側で負担して全国一律にするか、付加価値を充実させるなどの、価格面以外の魅力を高くしていく対策が求められる。

 

到着までの時間の問題

送料と同じく配送に関わる問題に、地方からの発送だと、どうしても到着までにかかる時間が長くなってしまう点がある。首都圏ではamazonなどによって、注文したその日に届く即日配送サービスも普及している。しかし到着までの日数については、宅配業者の問題もあるので、EC事業者にとってはどうすることもできない問題だ。

できるだけ出荷は即日行うなどのサービスで対抗していくしかない。

 

最新情報が入りにくい

EC事業はウェブビジネスの一つであり、常に進歩している業界だ。そのため最新のマーケティング情報や技術革新などの情報は敏感にキャッチしておく必要がある。だがそうした最新情報は首都圏に集まるもの。

拠点を地方においていると、そうした情報が入ってこず、気づいたら時代遅れの戦略をとっていた…ということにもなりかねない。最新の情報はネットなどで常に入手しておく体制を取っておくようにしよう。
※参考「ネットショップ担当者ならチェックしておきたいウェブサイト13選

 

おわりに ネットショップは地方がお得

ネットショップは全国どこでも開業できるウェブサービスの一つ。高い賃料と人件費を払ってまで首都圏で開業するよりも、経費を抑えながら、地方の良さを活かした運営をするという選択肢もある。現在都市部に拠点がある起業でも、EC事業部だけを地方に移すことも可能だ。

これからEC事業を立ち上げようとお考えの個人や企業の方は、地方での開業という点も検討したいところだ。


【著者からの一言】

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鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-

当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!

ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!