ECサイトとメディアサイトの分離を提案するわけ

イーコマースの新たな集客手法として、私自身としても推奨しているECサイトのメディア化。メディアで配信するコンテンツを軸として見込み客の獲得やユーザーのファン化を促進するためのものだが、メディア化には大きく分けて2つのパターンがある。

それは既存のECサイト内にブログなどを設ける方法と、ECサイトとは別に独自のメディアサイトを構築する方法。ここでは前者を一体型メディア、後者を分離型メディアと称して区別している。

そして私個人的な考えとしては後者の分離型メディアを推奨している。今回は分離型メディアをおすすめしている理由について、ご説明していく。

 

メディア化が失敗してもリスクがない

ECサイトのメディア化は、企業が運営するメディアとしてオウンドメディアと呼ばれることもあるのだが、実はオウンドメディアは成果を出す前にプロジェクトが頓挫してしまうことが多いのだ。
※オウンドメディアが失敗する理由は「失敗する原因から考えるメディア運営を継続していくコツ」を参考に

皆さんもまったく更新のない企業ブログを見たことがないだろうか。そうした夢半ばに終わってしまったブログを見ると、なぜか悲しい気持ちになるし「この企業はまだ活動しているのかな?」と疑問に感じてしまうことがある。

 

賑わいが命のECサイトで更新ストップはNG

一体型メディアでECサイト内にブログ機能を設置したにもかかわらず、半年も前に更新がストップしてしまったとする。更新が途絶えてしまったブログを見たユーザーは、そのショップが現在も営業しているのかどうか不安になるだろう。最悪の場合は購入を取りやめてしまう可能性もある。

賑わいが命のECサイトでは、同サイト内にメディア機能を持たせることは、非常にリスクが高いことなのだ。絶対に更新を途絶えさせない強い信念を持っているのならよいが、やはりリスクを考えると同サイト内はおすすめできない。

 

分離型ならECサイトに傷がつかない

ECサイトとは別ドメインでメディアサイトを構築していれば、たとえオウンドメディア運用を止めてしまったとしても、ECサイト側には何の影響も及ぼさない。

もっと言えば、メディア運用の作業で意図せずともGoogleから何かしらのペナルティを受け、検索順位をガクッと落とされることがある。そうしたときに一体型メディアでは大打撃だ。自然検索からの流入ユーザーはSNSツールからの流入ユーザーと比較して購買意欲が高いため、そうしたユーザーの流入が減ってしまうのは、売上減に直結する大問題。

 

マルチチャネル型ECにも対応

マルチチャネルでネットショップの販路を拡大をする方法」でもご説明しているが、ネットショップを運営している事業者の中には、複数店舗を並行して運営している方もいる。現在1店舗しかなかったとしても、今後は独自ドメインショップとモール系ショップを組み合わせたりして、複数店舗を運営する可能性もゼロではない。

このようにマルチチャネルで販路を開拓しているEC事業者にとっては、分離型メディアの方が都合がよい。

メディアサイトの各ページには、記事内容に関連している商品ページへのリンクを張るわけだが、独自ドメインと楽天市場の双方のECサイトを運営しているなら、それぞれのページに遷移するリンクを張ればよい。どちらのリンクを踏んで商品ページを確認するかはユーザーが決めることであり、もしユーザーが楽天ポイントを貯めているなら、楽天のページに遷移できるリンクをクリックすることだろう。

 

メディアサイト自体で収益化できる

メディアサイトの運用は、ECサイトへの送客、ユーザーのファン化、企業のブランディングだけでなく、サイト自体が利益を生み出すようなツールにすることが可能だ。もちろんそのためには多くのPVを獲得し、ファンの集まるメディアに成長させなければならないが、地道に運用を続けていれば、特定の分野で有名なメディアにすることは、そう難しいことではない。

メディアサイトの収益化についての詳細は「メディア化対応して得られるECサイトの売上げ以外の収入」を参考にしてほしい。

 

広告媒体としての価値が生まれる

多くのユーザーが集まるということは、その媒体自体に広告価値が生まれることと同じ意味を持つ。テレビでも視聴率が高ければ高い番組ほど、CMを出稿する費用が高くなる。原理としてはインターネットメディアでも同じ。

他社の立場になって広告出稿について考えるなら、広告を掲載する媒体は、ECサイトよりもメディアサイトの方がよい。ECサイトはあくまでお買い物をする場所であり、多くの人が集まるコミュニティサイトのような場所の方が、ユーザーの反応もよくなる。

それに広告主としても、自社の本丸であるECサイトに他社の広告を掲載するのは、ブランドイメージを落とすことや顧客の流出にもつながり、あまり嬉しいものではない。

 

サイト売却の想定も

これはあまり知られていないことだが、ウェブサイトは売却できるのだ。一部ではサイト買収やサイトM&Aなどと呼ばれている。

今はかつてのように小手先のSEO対策で、作ったばかりのサイトを上位表示できるわけではない。多くのユーザーに愛され、検索エンジンにも好まれるようなサイトを構築していくには、それなりの時間と手間を必要とする。他人が育てたウェブサイトを購入するのは、その手間をお金を出して買うのである。

それに企業が新事業を始めるときには、一番最初の勢いも大切にしたい。そうしたときに、まずはウェブサイトを成長させるので6ヵ月ほどかかりますとなっては、メンバーの士気も下がってしまう。

 

ウェブマーケティングが仕事になる時代にウェブサイトは企業の武器になる

ここまでインターネットが発達してくると、B to BやB to C企業に限らず、ウェブを利用した集客は非常に重要になってくる。まさに”ウェブを制する者はビジネスを制す”という考え方だ。

そして集客の起点となるウェブサイトの質が高ければ高いほど、企業にとっては心強い武器となる。こうした背景もあり、サイト買収の動きは年々活発になっている。

 

純粋なメディアサイトの方が売却しやすい

ECサイトよりもメディアサイトの方が売却しやすい傾向にある。ECサイトの場合はどうしても物販が前提の商売のため、ECサイトを買収したところで、その後の運用をどうしていくか困ってしまう。ECサイトを買収するのと同じく、販売する商材を抱える必要がある。

しかしメディアサイトの場合は、その使い方次第ではさまざまな方面で活用できる。企業自体のブランディング、アフィリエイト、資料請求やお問い合わせまで、物販でクローズするという枠にとらわれずに、自由な展開が可能になる。

 

おわりに 分離型メディアの方が汎用度が高い

一体型よりも分離型メディアを構築した方が、その後の汎用度・自由度が高いのである。メディア化を始めるときには「絶対に途中で投げ出すことはない」と意気込んでいるかもしれないが、いざプロジェクトが始まると更新が途絶えてしまうケースは山のようにある。

経営者としては必ず失敗するリスクを想定しなければならず、リスクヘッジという意味でも分離型メディアが最適である。


【著者からの一言】

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鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-

当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!

ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!