2016年6月、経済産業省によって2015年のEC市場についての調査報告書が公開された。正式名称は「平成 27 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」と呼ばれるものだが、その内容はEC市場規模の変遷についてや、EC業界についての動向が記載されている。
※経済産業省では平成10年からEC市場についての調査をしており、今回が18回目
その報告書に記載されている内容で、重要なポイントをまとめたので、考察を交えながら当記事で紹介していく。経済産業省の報告書全てに目を通す時間のない忙しい方は、是非当記事を参考にしてほしい。
B to CのEC市場規模は13兆7,746億円規模に成長
まずEC事業者にとっての朗報は、EC市場は継続して成長傾向にあるということ。下の図をご覧いただくと、右肩上がりでEC市場が拡大していることが分かる。
2014年度のB to CのEC市場は12兆7,970億円で、2015年度は13兆7,746億円。伸び率は7.6%となった。ただしこれまで10%以上の伸び率を見せてきたことを考慮すると、少々成長が鈍化してきたという見方もある。
もはや商材は物だけではない
ちなみに2015年度、EC市場の13兆7,746億円の内訳は下図の通り。
物販系分野、サービス系分野、デジタル系分野、それぞれが景気の良い伸び率を見せているが、その中でもサービス系分野やデジタル系分野の伸び率が高くなっている。
もはやB to C型eコマースだとしても、ネットで購入するのは形ある物だけではない。書籍や音楽などのデジタルコンテンツや、サービスもネット通販で購入する時代。それだけユーザーのネット通販に対する壁が低くなっていることがうかがい知れる。
EC事業者として形ある物以外を販売したい場合は、当サイトの過去記事にもある「売る物がなければデータやスキルを商材として販売しよう」を参考にしてほしい。
物販系の伸び率は低下している
先にEC市場の伸び率が鈍化していることに触れたが、実は物販系分野の伸び率が大きく下落している。物販系分野は2014年度は13.5%の伸び率だったのに対し、2015年度は6.4%となり、その率は約半減している。
※物販分野とは食品・雑貨・化粧品・生活家電・衣類・事務用品・自動車などが含まれる
単純に伸び率だけ見ると物販系分野の成長は落ち込んでいるが、弊社としては消費者のネットでのお買い物意欲が薄れたわけではないと考えている。
近年ではフリマアプリのメルカリや、楽天のラクマといったサービスが普及しており、これらはC to C型eコマースに該当する。経済産業省の調査ではC to C型eコマースは考慮されていないため、B to C型eコマースの物販ジャンルの伸び率が減少したと考えられる。
※メルカリは月間流通総額100億円を達成している
B to Cを専門としてECサイトを展開している事業者としては、若干売りにくい状況になったという問題点が挙げられる。
EC化率はまだまだ低い
先の内訳の図では、物販事業のEC化率は4.75%という数字が公表されている。2014年度は4.37%だったので、0.38 ポイント増という結果に落ち着いた。
物販事業を行っている事業者の内、eコマースを展開している企業は4.37%であり、この数字は非常に低い数値であると言えるだろう。つまり見方を変えれば、まだまだEC業界に参画していない物販事業者は山ほどあり、それらの事業者がネット通販を今後展開する可能性は十分にある。現在でもすでにレッドオーシャン化しているEC業界は、ますます店舗間での競争が激しくなることが予想される。
現在の固定客を、新規出店のネットショップに奪われてしまう可能性だってある。現状に満足するのではなく、お客様に愛されるショップづくりのための施策が必要になるだろう。
スマートフォン利用率の増加
スマートフォンの普及によって、ネットショッピングもスマートフォン経由で決済まで完了させてしまうことが多くなった。この流れはここ数年で急激に加速している。
ちなみに下図はインターネット接続をする際の端末種類の統計だが、2014年度末時点で、スマートフォンの利用は1位の自宅のパソコンに迫ろうとしている勢いだ。スマートフォンからのネット接続が1位に来る日もそう遠くはないだろう。
EC事業者はスマートフォン対策が求められる
下図はB to C型eコマースにおける、スマートフォン経由の市場規模の表である。
2015年の市場規模(物販系)7兆2,398億円に対し、その27.4%の1兆9,862億円がスマートフォン経由となっている。この割合は今後さらに伸びていくことが予想される。
EC事業者の対応としては、PCで操作することを前提としたサイト設計から、スマートフォンでもストレスなく操作できるような設計に改修していく必要がある。具体的な対策を言うなら、ユーザーが利用する端末の画面幅に応じて表示を最適化するレスポンシブデザインを取り入れたり、スマートフォンで動作するアプリケーションの開発を進めていくのもよいだろう。
またスマートフォンに対応したサイトは、モバイル端末での検索にて優先して上位表示されることも、Googleによって公式発表がされている。
こうしたモバイル端末への対応については「ECサイトもモバイルファーストの対応を意識する時代に」の記事を参考にしてほしい。
高齢者向けEC事業者はしばらく様子見
モバイル経由でのネットショッピング利用が増加していることは事実だが、まだまだ年代によって利用率に差があることも無視してはいけない。
2014年度末の報告によると、スマートフォン利用率は20 歳代が87.5%であるのに対し、50 歳代は41.8%となっている。圧倒的に若年層の方がスマートフォンを利用している率が高いのだ。だから一概に全てのECサイトでスマホ対応を進めるのが最善というわけではなく、自店を利用するユーザーの質を見極めながら、本当にスマホ対応していく必要があるかどうかを判断していかなければならない。
高齢者を対象としたネットショップなら、しばしの間様子見しておくのがよい。
越境ECは活況の様子
EC市場が拡大しているのは日本国内に限ったことではなく、世界各国で共通してみられる動向である。そうした流れに伴い、国外のお客様を相手にネット通販を行う越境ECの市場も拡大の様子を見せている。経済産業省の資料では、日本・アメリカ・中国の3か国間を対象とした市場規模の報告をしている。
中国の伸び率が非常に高い
上の図が日本を含む3カ国それぞれの、越境ECの市場規模である。赤枠で囲んでいる箇所が、日本の越境EC事業者が海外のユーザーに商品を販売してる流通額に該当する。
注目すべきは対前年比のパーセンテージで、アメリカの10.5%に対し、中国は31.2%と驚異的な伸びを見せている。購入額についても、既に中国がアメリカを2,500億円以上、上回っている。
今後の越境EC市場の予測
今後の越境EC市場の予測についても、当資料で公開している。それが上図である。赤枠で囲っている箇所が、日本の越境EC事業者がアメリカ向け、中国向けに商品を販売する流通額である。
2015年の数値については先程お伝えしたばかりだが、4年後の2019年、アメリカ向けECの市場規模は8451億円、中国向けECの市場規模は2兆3359億円となっている。アメリカ向けECが現状の水準から1.57倍の伸び率なのに対し、中国向けECは2.93倍もの伸び率が予想されるそうだ。
各国別のB to C型eコマースの市場規模を比較しても、群を抜いて中国が伸びてきており、越境ECについても、これからは中国向け販売がますます活況になることが予測される。
今のうちに中国向け通販対策を講じる
日本国内のEC業界は、既にネットショップが乱立し過ぎており、買い手市場に突入している。新規顧客を捕まえるのも難しければ、固定客を囲い込むのも工夫が必要になる。新たな販路を拡大するという意味でも、これから市場がさらに拡大するであろう中国を攻略していくという戦略もよいだろう。
ただし国が違えば商習慣も異なるものである。ネットショップを運営してきた事業者ならお分かりだろうが、EC事業はネットショップをオープンすればすぐにお客様が集まるほど簡単なものではない。中国向けECを展開していきたいのなら、今の段階から中国の商習慣を理解し、その地域にローカライズした戦法を取っていくことが求められる。
また越境ECを始めるには、それなりに費用も必要になる。言語の翻訳にかかる費用も安いものではないし、越境ECに対応したカートシステムやショップも再構築しなければならない。一からシステムを構築するのはちょっと…という方は、海外向けEC用のASPなどを利用するのも一つの手だ。
越境ECについては、下記の二つの記事を参考にしてほしい。
以上が弊社によるダイジェスト
これまで2016年公開の経済産業省によるEC市場規模についての報告書について、重要な部分をピックアップしてダイジェストとしてお送りしてきたが、いかがだったろう。よく分からなかった…という方は、ひとまず以下の3点だけでも頭に入れておくとよい。
- 国内EC市場は引き続き成長傾向だが、物販系を中心に少々伸び率は鈍化した(ただしC to C型EC市場は伸びている)
- スマートフォンでのネット通販利用が急激に増加しているため、EC事業者もスマホ対応の必要性が高まってきた
- 越境EC市場は、中国向け通販が高い伸び率を見せており、今後も有力な市場として期待できる
これらの要点を踏まえながら、厳しいEC市場で生き残っていくための術を考えていこう。
なお、経済産業省による報告書を原本で確認したい場合は、以下のページからページ下部にある報告書のPDFをダウンロードしてほしい。
電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました – 経済産業省
【著者からの一言】
鍵谷 隆 -KAGIYA TAKASHI-
当記事は2016年ごろ、私がECサイトのコンサル経営をしていた時期にまとめたノウハウ集だ。そのため外部サイトへのリンクが切れていたり、Googleや各種ASPなどの外部システムの仕様変更などで状況が変わっている可能性があることだけは了承してくれ!
ただ商いの本質は変わることはない。ネットショップ運営でお困りの経営者や担当者なら、当サイトの記事も必ず役に立つはずだ。全てのEC関係者に幸あれ。検討を祈る!